「国名*」駅

−駅名接頭・接尾語考(2)−

駅名の接頭語としての旧国名を考える。接頭語としての国名は、他の接頭語と異なり、遠隔地にある同じ地名(基本地名)の駅と区別するためのものである(三河等にいくつかの例外がある)。複数の基本地名駅が存在するとき、先行開業駅が基本地名を単独で名乗り(単独基本地名駅)、あとから開業した駅が国名を冠するのが一般的である。原則として同名駅を避けるという旧国鉄の方針は、第一次国有化後の1910年代に確立したと推定され、その後多くの駅が国名駅に改称された。
目次
令制国 表1 旧国名一覧
非接頭語国名駅 表2 非接頭語国名駅
接頭語としての旧国名駅 表3 国別「国名*」駅数
表4 事業者別「国名*」駅数
旧国名駅と単独基本地名駅 表5 「国名*」駅と単独基本地名駅の数
表6 「*一宮」駅と「*山田」駅
遠隔地の同一地名駅と区別 表7 同一地名の「国名*」駅と単独基本地名駅
長幼の序 表8 単独基本地名駅より早く開業した「国名*」駅
「国名*」駅の発祥 表9 基本地名駅から「国名*」駅への改称
基本地名駅への改称 表10 基本地名駅への改称
改訂履歴


令制国

「国」は7世紀後半から明治時代まで、日本の地理的区分の基本単位であった。最近の歴史学では、律令制に基づいて設置されたことから、令制国(りょうせいこく)と呼ばれているらしい。令制国は、奈良時代末までに68国が成立し、平安時代から江戸時代まで変更がなかった。明治時代初期の1869年に、陸奥が5国、出羽が2国に分割され、蝦夷地を北海道と改め11国が設置された。

国名はすべて漢字二字からなっているが、その一字をとって「*州」と呼ぶ通称があり、駅名の接頭語としても使用されている。
 

表1 旧国名一覧
畿・道 国名(通称)
畿内 山城(山州、城州) 大和(和州) 河内(河州) 和泉(泉州) 摂津(摂州)
東海道 伊賀(伊州) 伊勢(勢州) 志摩(志州) 尾張(尾州) 三河(三州) 遠江(遠州) 駿河(駿州) 伊豆(豆州) 甲斐(甲州) 相模(相州) 武蔵(武州) 安房(房州) 上総(総州) 下総(総州) 常陸(常州)
東山道 近江(江州) 美濃(濃州) 飛騨(飛州) 信濃(信州) 上野(上州) 下野(野州) 陸奥(奥州) [陸奥] [陸中] [陸前] [磐城] [岩代] 出羽(羽州) [羽前] [羽後]
北陸道 若狭(若州) 越前(越州) 加賀(加州) 能登(能州) 越中(越州) 越後(越州) 佐渡(佐州)
山陰道 丹波(丹州) 丹後(丹州) 但馬(但州) 因幡(因州) 伯耆(伯州) 出雲(雲州) 石見(石州) 隠岐(隠州)
山陽道 播磨(播州) 美作(作州) 備前(備州) 備中(備州) 備後(備州) 安芸(芸州) 周防(防州) 長門(長州)
南海道 紀伊(紀州) 淡路(淡州) 讃岐(讃州) 伊予(予州) 阿波(阿州) 土佐(土州)
西海道 筑前(筑州) 筑後(筑州) 豊前(豊州) 豊後(豊州) 肥前(肥州) 肥後(肥州) 日向(日州、向州) 大隅(隅州)薩摩(薩州) 壱岐(壱州) 対馬(対州)
北海道 [渡島] [後志] [胆振] [石狩] [天塩] [北見] [日高] [釧路] [十勝] [根室] [千島]
[ ]は、1869年設置


非接頭語国名駅

次の駅は「国名*」駅であるが、国名が接頭語として使われているわけではない。
 
表2 非接頭語国名駅
  同国 他国
旧国名単独駅 摂津(大阪モノレール・大阪モノレール)、紀伊(JR西・阪和)、北見(JR北・石北)、釧路(JR北・根室)、根室(JR北・根室) 山城(伊勢、三岐鉄道・三岐)、大和(相模、小田急・江ノ島=相鉄・本/常陸、JR東・水戸)、河内(備後、JR西・山陽)、伊賀(筑前、JR九・香椎)、日向(下総、JR東・総武)、磐城(大和、近鉄・南大阪)、岩代(紀伊、JR西・紀勢)、但馬(大和、近鉄・田原本)、播磨(伊勢、養老鉄道)、石見(大和、近鉄・橿原)、淡路(摂津、阪急・京都)、安芸(土佐、土佐くろしお・阿佐)
国名+市・町 摂津市(阪急・京都)、美濃市(長良川鉄道)、伊勢市(JR海・参宮=近鉄・山田)、出雲市(JR西・山陰)、長門市(JR西・山陰)、伊予市(JR四・予讃)、日向市(JR九・日豊)、播磨町(山陽電鉄・本) 淡路町(武蔵、東京メトロ・丸ノ内)
国名+非地名 和泉中央(泉北高速)、近江神宮前(京阪・石山坂本)、遠州病院前(遠州鉄道)、伊豆高原(伊豆急)、相模湖(JR東・中央)、加賀温泉(JR西・北陸幹)、出雲大社前(一畑電鉄・大社)、長門峡(JR西・山口)、釧路湿原(JR北・釧網) 丹波口(山城、JR西・山陰)、丹波橋(山城、京阪・本)、大和川(和泉、阪堺電軌・阪堺)、武蔵塚(肥後、JR九・豊肥)、能登川(近江、JR西・東海道)、越中島(武蔵、JR東・京葉)、阿波座(摂津、大阪メトロ・中央)、肥後橋(摂津、大阪メトロ・四つ橋)
国名を含む地名 相模原(JR東・横浜)、武蔵野台(京王・京王)、能登部(JR西・七尾)、安芸津(JR西・呉) 和泉多摩川(武蔵、小田急・小田原)、伊賀屋(肥前、JR九・長崎)、伊勢田(山城、近鉄・京都)、伊勢崎(上野、JR東・両毛=東武・伊勢崎)、伊勢原(相模、小田急・小田原)、伊勢佐木長者町(武蔵、横浜市・1号)、三河島(武蔵、JR東・常磐)、三河内(肥前、JR九・佐世保)、信濃町(武蔵、JR東・中央)、出雲崎(越後、JR東・越後)
他の接頭語 伊豆急下田(伊豆急)  

市制施行に当たって旧国名を採用した市は、代表駅名も「*市」駅に改称するのが一般的である。これに対し、摂津と北海道の北見、釧路、根室は旧国名を単独で名乗っている。これらの旧国名市については、「*市」駅で考察した。播磨町は播磨国にある「*町」駅であるが、1962年阿閇(あえ)村が町制施行して播磨町になってから30年ほど経過した1991年電鉄本荘から改称した。

紀伊は、和歌山市の紀伊支所管内(旧紀伊村)にある。紀伊国府が置かれていた場所であり、この付近の「き」(木→紀)という地域呼称が国名の紀伊となり、明治になって村名として国名が逆輸入されたものらしい。また駿河(御殿場線、1952年1月駿河小山に改称)、美濃(名鉄美濃町線、1999年4月廃止)も単独国名駅であった。他の10駅、山城、大和、河内、伊賀、日向、磐城、但馬、播磨、淡路、安芸は、他国にある別の地名に由来する。

人工の施設や自然景観、地形などの非地名に国名を冠して、駅名としているものもある。このうち越中島と肥後橋は、それぞれ江戸時代存在した、榊原越中守の別邸、肥後・熊本藩の蔵屋敷に由来する。武蔵塚は、近隣にある宮本武蔵のものといわれる墓から命名されており、国名の武蔵ではない。

「国名+非地名」グループと、完全に区別できるわけではないが、国名を含む地名のグループがある。能登部は中能登町の、伊勢田は宇治市の、廃止された三江線の伊賀和志(いかわし)は三次市の字名である。安芸津も安芸+津ではない。開業時は三津町にあり安芸三津と称する「国名*」駅であったが、1943年三津町など3町村が合併し、安芸津町が誕生したことにより、1949年駅名も改められた(現在は東広島市)。


接頭語としての旧国名駅

残る接頭語としての「国名*」駅を別表旧国名駅に記載した。2022年9月23日現在588の「国名*」駅があるが、旅客駅として存在した「国名*」駅は延べ943駅になる。複数事業者が共同使用する同一名称駅や、初代駅の廃止後同じ名称で開業した二代目以降の駅は、同じ駅として数えた数字である。同一駅が複数の「国名*」駅をたどったケースでは、尾張一ノ宮→尾張一宮と伊予立花→いよ立花は、読みが変わらないので、同じ駅とした。一方飛騨船津→飛騨神岡(神岡鉄道)、遠州島ノ郷→遠州曳馬(遠州鉄道)、信州浅野→信濃浅野(JR東・飯山)など、表記と読みがともに変わった駅は駅名ごとに計上した。

2017年3月可部線の廃線区間の電化復活によって開業したあき亀山駅は、2003年廃止された安芸亀山駅から5キロ南に設置された別の駅である。いよ立花(1981年改称)、はりま勝原(2008年3月15日開業)に続く3番目のひらがな国名駅になった。はりま勝原以降誕生した「国名*」駅は4駅あるが、後述するように旧国名の市名を冠して改称した越前武生、越前たけふと筑後船小屋以外は、ひらがな国名駅である。

国ごとの「国名*」駅の数を表3に示す(2024年3月16日現在)。

表3 国別「国名*」駅数
順位 国名 現存 同順位 残存率
1武蔵(武州)3825265.8%
2三河3317551.5%
3遠江(遠州)3173322.6%
3越後3123474.2%
5紀伊3025283.3%
6信濃(信州)2817560.7%
6伊予2826192.9%
8陸前25151060.0%
9肥前24131454.2%
10伊勢2317573.9%
10美濃(美乃)23111747.8%
12羽後22111750.0%
13上総2117581.0%
13筑前21102047.6%
15阿波20151075.0%
15薩摩2073335.0%
17常陸1973336.8%
17越前19151078.9%
19羽前18151083.3%
19安芸1882544.4%
21土佐1716994.1%
22陸中15121580.0%
23陸奥14102071.4%
23大隅1435521.4%
25甲斐1382561.5%
25越中13121592.3%
順位 国名 現存 同順位 残存率
25石見1335523.1%
25備後13102076.9%
25肥後1373353.8%
30河内12111791.7%
30能登1235525.0%
30備前1282566.7%
30筑後1245033.3%
34飛騨1182572.7%
34出雲(雲州)1173363.6%
36大和1082580.0%
36尾張1064460.0%
36磐城1082580.0%
36美作1092390.0%
36長門1082580.0%
36豊後1092390.0%
36日向1082580.0%
43相模945044.4%
43渡島935533.3%
45近江873387.5%
45加賀816712.5%
45丹後826025.0%
45備中873387.5%
45周防854662.5%
45讃岐873387.5%
45豊前864475.0%
45天塩816712.5%
順位 国名 現存 同順位 残存率
53和泉(泉)7733100.0%
53伊豆7733100.0%
53下野(野州)754671.4%
53播磨(播州)7733100.0%
53石狩716714.3%
58下総654683.3%
58上州654683.3%
58岩代616716.7%
58北見60720.0%
58日高60720.0%
63安房545080.0%
63十勝516720.0%
65志摩4450100.0%
65若狭4450100.0%
67伊賀3355100.0%
67駿河326066.7%
67丹波326066.7%
67淡路30720.0%
71山城2260100.0%
71摂津2260100.0%
71因幡2260100.0%
71伯耆2260100.0%
75但馬10720.0%
75根室10720.0%
合計94458862.3%

「国名(州名)*」駅がなかったのは、鉄道の設置されたことのない離島5国(佐渡、隠岐、壱岐、対馬、千島)及び北海道の3国(後志、胆振、釧路)である。その他の国には、「国名(州名)*駅」が存在した。なお、上野国には、上野を冠した駅はなく、「上州*」駅のみである(県名の群馬を冠した駅が5ある)。離島のうち鉄道があった淡路と北海道の北見、根室及び日高の「国名*」駅は全て廃止された。また但馬に1駅だけあった北近畿タンゴ鉄道の但馬三江も、2015年4月1日WILLER TRAINS(京都丹後鉄道)への移管に際しコウノトリの郷に改称され、但馬の国名駅もなくなった。

伊予が2駅だけの減少(伊予大井→大西、伊予立花→いよ立花)で現存駅第1位に浮上した。一方大きく順位を下げたのは、薩摩(20→7、15位→33位)、常陸(19→7、17位→33位)、大隅(14→3、23位→56位)、能登(12→3、30位→56位)、加賀・天塩(8→1、45位→69位)など、国鉄地方交通線とローカル私鉄が廃止になった国が目立つ。3位から33位にもっとも順位を下げた遠江(遠州)は、駅名改称によるところが大きい(現存する7駅中5駅が遠州鉄道の駅で、社名を冠したともいえる)。

表4に事業者別の現存「国名*」駅数を示す。

表4 事業者別「国名*」駅数
事業者名国名駅全駅比率率順
1JR東日本13616248.4%29
2JR西日本130115411.3%17
3JR九州6057210.5%20
4JR四国5926122.6%8
5JR東海4241110.2%21
6近鉄262879.1%27
7小湊鉄道91850.0%1
8名鉄82752.9%55
9南海71007.0%37
11養老鉄道62722.2%9
11西武6916.6%39
11富山地方鉄道61065.7%42
16東武62062.9%54
15肥薩おれんじ52817.9%12
15上信電鉄52123.8%7
15えちぜん鉄道54411.4%16
事業者名国名駅全駅比率率順
15遠州鉄道51827.8%2
8JR北海道53321.5%58
19伊豆急行41625.0%3
19三陸鉄道4419.8%24
19土佐くろしお4439.3%25
22いすみ鉄道31421.4%10
22長野電鉄32412.5%15
22伊豆箱根鉄道32711.1%18
22秋田内陸縦貫鉄道33010.0%22
22秩父鉄道3378.1%33
22東急3983.1%51
28のと鉄道2825.0%3
28北条鉄道2825.0%3
28伊賀鉄道21513.3%14
28あいの風とやま2229.1%26
28愛知環状鉄道2238.7%28
事業者名国名駅全駅比率率順
28しなの鉄道2277.4%35
28WILLER TRAINS2326.3%40
28長良川鉄道2395.1%44
28天竜浜名湖鉄道2395.1%44
37阿佐海岸鉄道1425.0%3
37紀州鉄道1520.0%11
37東海交通事業1616.7%13
37若桜鉄道1911.1%18
37伊勢鉄道11010.0%22
37道南いさりび1128.3%30
37由利高原鉄道1128.3%30
37福島交通1128.3%30
37アルピコ交通1137.7%34
37くま川鉄道1147.1%36
37井原鉄道1156.7%38
37山形鉄道1175.9%41
事業者名国名駅全駅比率率順
37IRいしかわ1185.6%43
37一畑電車1263.8%46
37相鉄1273.7%47
37青い森鉄道1273.7%47
37三岐鉄道1283.6%49
37豊橋鉄道1303.3%50
37大井川鐵道1333.0%52
37近江鉄道1333.0%52
37平成筑豊鉄道1402.5%56
37伊予鉄道1621.6%57
37小田急1701.4%59
37京阪1901.1%60
59867398.9%
複数事業者の共用駅は個別に計上

JR各社が上位に並ぶが、その中で「国名*」駅が22.5%を占めるJR四国が4位にはいった。小湊鉄道は50%が「国名*」駅で、7位。大手私鉄では、京成、京王、京急、阪急、阪神に「国名*」駅が存在しない。これらは、都市内及び都市間の軌道を起源としている。国鉄との連絡運輸が限定的のため駅名の重複が許容され、接頭語がつけられなかった。また地下鉄及び路面電車の公営交通にも同じ理由で「国名*」駅はない。国鉄・JRから転換した第三セクターの多くの路線は、転換時にJRとの連絡運輸が部分的にしか設定されず、「国名*」駅の国名が外された。


旧国名駅と単独基本地名駅

「国名*」駅は、[国名+基本地名]という構造をもつ。大和、下野(基本地名の読みは[しもの])及び和泉(基本地名は[泉])は、国名としても基本地名としても使われている。国名などの接頭語を冠しない基本地名だけの駅を単独基本地名駅と称す。また「国名*」駅と単独基本地名駅を併せて、基本地名駅と称すことがある。別表の同一基本地名駅で、基本地名ごとに「国名*」駅と単独基本地名駅を駅名に基本地名を使用した順に示している。

表5に「国名*」駅に使われている基本地名の数を、「国名*」駅と単独基本地名駅のマトリックスで示す。黒字は過去存在した駅を含めた数字、赤字は現存駅である。
 

表5 「国名*」駅と単独基本地名駅の数
単独基本地名駅
国名駅 0 1 2 3 4 5 6 7 8 駅数
1134 104 238175 7945 2718 105 01 21 10 00 491349 491349
2 913 3626 188 86 63 41 00 00 00 8157 162114
3 36 1813 114 73 20 20 10 10 00 4526 13578
4 20 51 53 21 10 01 10 10 10 186 7224
5 00 00 41 31 10 00 00 00 00 82 4010
6 00 10 01 20 00 00 00 00 00 31 186
7 00 00 00 00 00 10 00 00 00 10 70
8 00 01 00 00 10 00 00 00 00 11 88
9 00 00 00 00 00 00 00 00 00 00 00
10 00 00 00 00 00 00 00 00 00 000 0
11 00 10 00 00 00 00 00 00 00 10 110
148123 299216 11762 4929 218 73 41 30 10 649442 944589

表の縦軸は「国名*」駅の数を、横軸は対応する単独基本地名駅の数を示す。「国名*」駅が1国だけの基本地名は、491種類(現存駅は349)ある。また「国名*」駅だけ存在し、対応する基本地名駅がないのが148組(現存123組)ある。このうち、単独基本地名駅も他の「国名*」駅も存在せず、区別する対象がないのに国名を冠している駅が、肥後伊倉(JR九州・鹿児島)、伊豆稲取(伊豆急行)など134駅(現存104駅)ある。

「国名*」駅に使用された基本地名は649(うち現存駅は442)種類ある。一宮(一ノ宮、一の宮を含む)が最も多くの「国名*」駅に使われた基本地名で、尾張一宮、上総一ノ宮など12駅あった(現存駅は8)。このほかに単独の一宮駅(高松琴平・琴平)がある。2位は山田で国名駅8駅(単独基本地名駅4駅)、3位の7駅が高田(単独基本地名駅5駅)、4位タイの6駅が富田(単独基本地名駅3駅)、中川(単独基本地名駅3駅)、中島(単独基本地名駅1駅)。

中野は、単独基本地名駅の最多で8駅あり、このほか「国名*」駅が4駅ある。「国名*」駅と基本地名駅をあわせると、一宮、山田、高田、中野の4組が12駅で最多である。このうち、一宮と山田について駅名誕生・改称の経緯を表6に示す。

表6 「*一宮」駅と「*山田」駅
駅名 事業者・路線 開業日 開業時駅名 国名駅改称日 非国名(基本地名)駅改称 廃止日 駅名の由来
尾張一宮 JR東海・東海道 1886/05/01 一ノ宮 1916/01/01 一宮市
上総一ノ宮 JR東日本・外房 1897/04/17 一ノ宮 1916/01/01 長生郡一宮町
上州一ノ宮 上信電鉄 1897/07/02 一ノ宮 1921/12/17 北甘楽郡一ノ宮町→富岡市
三河一宮 JR東海・飯田 1897/07/22 一ノ宮 1916/01/01 宝飯郡一宮村→一宮町→豊川市
長門一ノ宮 国鉄・山陽 1901/05/27 一ノ宮 1916/01/01 1975/03/10 新下関
備前一宮 JR西日本・吉備 1904/11/15 一ノ宮→一宮 1916/02/01 御津郡一宮町→岡山市
能登一ノ宮 北陸鉄道・能登 1925/03/03 1972/06/25 羽咋郡一ノ宮村→羽咋町→羽咋市
土佐一宮 JR四国・土讃 1925/12/05 高知市一宮
一宮 高松琴平・琴平 1926/12/21 香川郡一宮村→高松市
飛騨一ノ宮 JR東海・高山 1934/10/25 大野郡宮村一ノ宮→高山市
加賀一ノ(の)宮 北陸鉄道・石川 1927/06/12 神社前 1937/12/08 2009/11/01 石川郡一ノ宮村→鶴来町→白山市
遠江一宮 天竜浜名湖鉄道 1940/06/01 周知郡一宮村→森町
山田 国鉄・参宮 1897/11/11 1959/07/15 伊勢市 宇治山田町→宇治山田市→伊勢市
近鉄・山田 1930/09/21 1959/07/15 伊勢市
山田 山陽電鉄・本 1917/04/12 1935/08/01 舞子→西舞子 武庫郡山田村→神戸市
丹後山田 国鉄・宮津 1925/07/01 1990/04/01 野田川 与謝郡山田村→野田川町→与謝野町
羽後山田 羽後交通・雄勝 1928/08/10 1973/04/01 雄勝郡山田村→湯沢市
土佐山田 JR四国・土讃 1925/12/05 香美郡山田町→土佐山田町→香美市
山田 京王・高尾(御陵) 1931/03/20 八王子市山田町
美濃山田 国鉄・越美南 1932/07/09 1986/12/11 山田 郡上郡山田村→大和村→大和町→郡上市
陸中山田 三陸鉄道・リアス 1935/11/17 下閉伊郡山田町
越中山田 JR西日本・城端 1951/08/10 東礪波郡山田村→西礪波郡福光町→南砺市
紀伊山田 JR西日本・和歌山 1952/10/01 伊都郡山田村→橋本市
上総山田 小湊鉄道 1925/03/07 養老川 1954/12/01 市原郡山田村→養老村→高滝村→加茂村→市原市
山田 阪急・千里 1973/11/23 三島郡山田村→吹田市
大阪モノレール・大阪モノレール 1990/06/01

一の宮はその国で最も社格の高い神社であり、令制国すべてに設置された。各国にこれに由来する地名が存在するので、互いに区別するために国名を冠している。このうち、単に「一ノ宮」として開業した尾張一宮、三河一宮、上総一ノ宮、長門一ノ宮は、1916年1月1日に同時に(尾張一宮は尾張一ノ宮に。その後1952年11月15日尾張一宮駅に改称)、備前一宮は1ヵ月後の1916年2月1日に、それぞれ改称した。1920年代以降に開業した駅は、開業時から国名駅であった。そのなかで、地名の格が高いとはいえず、開業時期も遅い高松琴平電鉄の讃岐一の宮だけが国名を冠していない[1]

山田という基本地名も全国各地に存在する。国鉄参宮線の山田駅が1897年最初の「*山田」駅として開業し、1930年に参宮急行電鉄(現・近鉄山田線)が乗り入れた。「*山田」駅第2号は、1917年開業の山陽電鉄山田駅である。両駅ともその後、別の基本地名駅に改称した。ここでも、1920年代以降に開業した駅は、先行する基本地名駅と区別するために国名駅として開業した。その中で、1931年開業の京王線山田駅(1945年休止、1967年高尾線開業時に復活)と1973年開業の阪急千里線山田駅(1990年大阪モノレールが乗り入れ)が国名を冠していない。なお、美濃山田は、国鉄から長良川鉄道への転換時に、国名を外し、単独基本地名駅になった。国名駅から単独基本地名駅への改称については、後述する。

以上から、国名駅の命名には次のルールがあることが読み取れる。

  1. 「国名*」駅は、遠隔地に存在する単独基本地名駅または同じ基本地名に他の国名を冠した駅と区別するために命名される。
  2. 先行して開業した単独基本地名駅があるとき、あとから開業した駅が国名駅となる。
  3. 第1次鉄道国有化後の1910年代に旧国鉄において同一駅名を回避する方針が定められ、単独基本地名駅から国名駅への改称が行われた。


遠隔地の同一地名駅と区別

第1のルールの「国名*」駅は、遠隔地にある単独基本地名駅と区別するという点で、同じ場所に基本地名を用いた複数の駅が設置されるとき、隣接駅と区別するために使われる「新*」、「本*」や「*市」などの他の接頭接尾語と異なる。ただし同じ地名に基づく「国名*」駅と単独基本地名駅が存在する例外がある。これらを表7に示す。

表7 同一地名の「国名*」駅と単独基本地名駅
「国名*」駅 変遷 単独基本地名駅 変遷 備考
大和高田(近鉄・大阪) 1925/03/21(開)高田→大軌高田
1941/03/15(改)大和高田
高田(JR西・和歌山) 1891/03/01(開) 大和高田市内には、高田、大和高田に加えて、高田市駅(近鉄・南大阪)もある
伊勢朝日(近鉄・名古屋) 1929/01/30(開) 朝日(JR海・関西) 1983/08/08(開) 開業時に存在した万字線の朝日駅の廃止後、関西線に同一地名に基づく朝日駅が開業した
三河知立(名鉄・三河) 1915/10/28(開)知立
1959/04/01(改)三河知立
知立(名鉄・名古屋本) 1959/04/01(開) 初代知立駅として開業。隣接する新知立駅を統合して、現知立駅が開業時に三河知立に改称
三河平坂(名鉄・三河) 1926/09/01(開)
2004/04/01(廃)
平坂(名鉄・平坂支) 1914/10/30(開)
1941/02/10(改)平坂口
1960/03/27(廃)
平坂が平坂口に改称した時点で、隣接駅・港前が平坂に改称(1949/12/01に港前に再改称)
三河安城(JR海・東海道) 1988/03/13(開) 安城(JR海・東海道) 1891/06/16(開) 名鉄に新安城駅が存在したため、新幹線駅として設置時に在来線の同名駅と区別するのに「新*」としなかった例
三河塩津(JR東海・東海道 ) 1988/11/16(開) 塩津(名鉄・蒲郡) 1959/04/01(開)
1968/10/01(廃)
三河塩津の開業時には塩津駅は廃止(拾石駅とともに、蒲郡競艇場前に統合)されていたが、他に塩津駅はない
遠州岩水寺(遠州鉄道)など 1909/12/06(開)岩水寺
1923/04/01(改)遠州岩水寺
岩水寺(天竜浜名湖) 1923/04/01(開)岩水寺 遠州岩水寺は、1923/04/01岩水寺から改称されたが、旧国鉄二俣線岩水寺駅の開業(1940/06/01)以前。国名というよりも社名を冠した改称だろう。このほか、遠州鉄道には、他に国名駅が存在しない、遠州助信、遠州島ノ郷、遠州曳馬、遠州上島、遠州共同、遠州新村、遠州松木、遠州貴布禰、遠州道本、遠州芝本が単独基本地名駅等から改称しており、これらも社名を冠したものと思われる
遠州浜松(浜松電気鉄道・中ノ町 ) 1909/12/06(開)浜松→板屋町
1923/04/01(改)遠州浜松
1958/06/01(廃)
浜松(JR海・東海道) 1888/09/01(開) 遠州岩水寺と同様改称当時の社名(遠州鉄道)を冠した改称だろう
相模厚木(小田急・小田原) 1927/04/01(開)相模厚木
1944/06/01(改)本厚木
厚木(JR東・相模) 1926/07/15(開) 神中鉄道(現相鉄)が1926年5月12日、将来の厚木町への延長を約束して厚木駅名の使用許可を受け、相模川を隔てた海老名村に開業。2ヶ月遅れで相模鉄道(現JR東相模線)が開業。小田急厚木駅は、1927/04/01河原口として開業し、1944/06/01改称
武蔵溝ノ口(JR東・南武) 1927/03/09(開) 溝の口(東急・田園都市) 1927/07/15(開) 東急とJR東の連絡運輸の接続駅であるが、唯一駅名を異にしている
武蔵浦和(JR東・東北) 1985/09/30(開) 浦和(JR東・東北) 1883/07/28(開) 「*浦和」駅の中で最後の開業である。東西南北、中と接頭語を使い果たした結果の命名だろう
越前花堂(JR西・越美北) 1968/10/01(開) 花堂(福井鉄道) 1925/07/26(開)
越前武生(福井鉄道) 1924/04/23(開)武生新
2010/03/25(改)越前武生
2023/02/27(改)たけふ新
武生(ハピラインふくい) 1896/07/15(開) 武生新から2010/03/25改称した。国名の越前でなく、市名(2005/10/01武生市、今立町が合併して新設)を冠したと見るべきか。2023/02/27たけふ新に再改称。2024/03/16開業の北陸新幹線越前たけふ駅で復活
越前たけふ(JR西・北陸幹) 2024/03/16(開)
紀伊御坊(紀州鉄道) 1931/06/15(開) 御坊(JR西・紀勢) 1929/04/21(開) 御坊町として開業し、すぐに紀伊御坊に改称された
筑前芦屋(国鉄・芦屋) 1947/03/04(開)
1961/06/01(廃)
芦屋(国鉄・芦屋乗降場) 1947/03/04(開)
1961/06/01(廃)
兵庫県の芦屋を意識したものだが、同じ路線に隣り合って国名駅と単独基本地名駅(乗降場)があった。
筑前福間(西鉄・宮地岳) 1925/07/01(開)
1950/05/15(改)西鉄福間
2007/04/01(廃)
福間(JR九・鹿児島) 1890/09/28(開) 博多湾鉄道汽船として開業した西鉄唯一の国名駅

このほか、三河豊田(初代名鉄挙母線、第2代愛知環状鉄道)も、遠隔地に同じ基本地名の豊田(JR東・中央)があるが、同一基本地名の豊田市(名鉄・三河)と区別するための命名だろう。このように、本、新、東西南北などの接頭語の代わりに国名を冠するこの命名法は、三河国に突出している。これらを加えても、「国名*」駅のうち同地域の単独基本地名駅と区別するために命名された駅は全体の2%に満たない。

なお土佐穴内(JR四・土讃)と穴内(初代土佐電鉄安芸線、第2代土佐くろしお鉄道阿佐線)は同じ土佐国にあるが、別の地名である。薩摩久木野(鹿児島交通・枕崎)と久木野(JR九・山野)も同じ薩摩国の別地名だが、両駅とも廃止された。このように同国にあるケースでは国名を冠して区別することができないが、接頭語とすべき別の広域地名がなかったのだろうか。


長幼の序

一般に、同じ基本地名を有する場所のうち、最も著名な土地に鉄道が早く開業することが多い。したがって、先行開業した単独基本地名駅があるとき、あとから開業する、知名度が低い同じ基本地名の駅は、「国名*」駅となる。たとえば1921年3月20日に開業した陸奥横浜(青森県上北郡横浜町)は、鉄道の発祥地であり、全国区の大都市でもある横浜駅(1872/07/10開業[2])に敬意を表して、陸奥を接頭語とした。川崎と豊前川崎(JR九・日田彦山)、鳥取と和泉鳥取(JR西・阪和)、宮崎と越中宮崎(あいの風とやま)など、政令指定都市や県庁所在地の代表駅も同様である。

著名な駅名は市の代表駅に限らない。東京のターミナル駅上野(日本鉄道が1883/07/28開業)に対し、伊賀上野(JR西・関西=伊賀鉄道、1897/01/15開業)、伊勢上野(伊勢鉄道、1987/03/27開業)、甲斐上野(JR海・身延、1928/03/30開業)が国名を冠している。このうち伊賀上野は、関西鉄道の駅として開業した当時、単に上野と称しており、1907年の鉄道国有化法による買収を経て、1916年9月11日改称されたものである。

赤穂浪士で有名な赤穂が播州赤穂を名乗っているのは、1951年の開業当時、飯田腺の現駒ヶ根が赤穂と称していたからである。その他、磐城浅川、紀伊田辺、伊勢朝日、羽前椿、信濃浅野、安房天津、備後三日市、紀伊宮原、土佐穴内、肥前大浦、紀伊神谷、越前野中などが国名を冠したのも、その後改称または廃止された単独基本地名駅が存在したためである[3]。また、伊予白滝、阿波山川、播磨下里は、それぞれまったく別の名前で開業し、のちに「国名*」駅に改称した。改称の時点で単独基本地名駅の白滝、山川、下里が存在していたから、国名を冠したのである。

このように、先輩と後輩の序列は結構厳しいが、現存の「国名*」駅が1駅だけで、単独基本地名駅が存在する348駅のうち「国名*」駅のほうが早く開業した駅を表8にあげる。
 

表8 単独基本地名駅より早く開業した現存「国名*」駅
駅名 事業者・路線 変遷 基本地名駅 事業者・路線 変遷
大和新庄 JR西・和歌山 1896/05/10(開)新庄
1915/09/11(改)大和新庄
新庄 JR東・奥羽 1903/06/11(開)
遠州岩水寺 遠州鉄道 1909/12/06(開)岩水寺
1923/04/01(改)遠州岩水寺
岩水寺 天竜浜名湖 1940/06/01(開)
甲斐大島 JR海・身延 1919/04/08(開) 大島 *北陸鉄道・能登 1931/01/18(開)
1972/06/25(廃)
長良川鉄道 1955/03/01(開)
武蔵溝ノ口 JR東・南武 1927/03/09(開) 溝ノ口 東急・田園都市(溝の口) 1927/07/15(開)
上総清川 JR東・久留里 1912/12/28(開)清川
1923/09/01(改)上総清川
清川 JR東・陸羽東 1914/06/14(開)
下総中山 JR東・総武 1895/04/12(開)中山
1915/09/11(改)下総中山
中山 とさでん交通・伊野 1908/02/20(開)
JR東・横浜 1908/09/23(開)
近江長岡 JR海・東海道 1889/07/01(開)長岡
1914/12/01(改)近江長岡
長岡 *山陽鉄道(JR西・山陽) 1891/03/18(開)長岡
1906/01/01(改)西大寺→東岡山
*国鉄・東北 1895/04/01(開)長岡
1914/12/01(改)伊達
JR東・信越 1898/06/16(開)
近江八幡 JR西・東海道 1889/07/01(開)八幡
1919/03/11(改)近江八幡
八幡 JR九・鹿児島 1902/12/27(開)
信濃荒井 アルピコ交通 1921/10/02(開) 荒井 山陽電鉄・本 1923/08/19(開)
上州富岡 上信電鉄 1897/07/02(開)富岡
1921/12/17(改)上州富岡
富岡 JR東・常磐 1898/08/23(開)
上州新屋 上信電鉄 1915/07/31(開)新屋
1921/12/17(改)上州新屋
新屋 JR東・羽越 1920/02/22(開)
美作千代 JR西・姫新 1923/08/21(開) 千代 JR海・飯田 1932/10/30(開)
陸中川井 JR東・山田 1933/11/30(開) 川井 JR東・青梅 1944/07/01(開)
羽後本荘 JR東・羽越 1922/06/30(開) 本荘 *名鉄・鏡島 1924/04/21(開)
1964/10/04(廃)
えちぜん・三国芦原 1928/12/30(開)
越後岩塚 JR東・信越 1945/06/01(開) 岩塚 名古屋市・東山 1982/09/21(開)
石見川越 JR西・三江 1931/05/20(開) 川越 東武・東上 1915/04/01(開)川越西町
1940/07/22(改)川越
JR東・川越 1940/07/22(開)
紀伊勝浦 JR西・紀勢 1912/12/04(開)勝浦
1934/07/01(改)紀伊勝浦
勝浦 JR東・外房 1913/06/20(開)
紀伊中ノ島 JR西・阪和 1932/01/01(開)中ノ島(停)→阪和中ノ島
1936/09/25(改)
中ノ島 札幌市・南北(中の島) 1971/12/16(開)
いよ立花 伊予鉄道・横河原 1893/05/07(開)立花
1927/03/01(改)伊予立花
1981-85(改)いよ立花
立花 JR西・東海道 1934/07/20(開)
筑前前原 JR九・筑肥 1924/04/01(開)前原
1937/10/01(改)筑前前原
前原 新京成 1955/04/21(開)
豊前松江 JR九・日豊 1897/09/25(開)松江
1945/05/01(改)豊前松江
松江 JR西・山陰 1908/11/08(開)
豊前善光寺 JR九・日豊 1897/09/25(開)四日市
1919/09/01(改)豊前善光寺
善光寺 JR海・身延 1928/03/30(開)
肥前山口 JR九・長崎 1895/05/05(開)山口
1913/03/01(改)肥前山口
2022/09/23(改)江北
山口 JR西・山口 1913/02/20(開)
石狩沼田 JR北・留萌 1910/11/23(開)沼田
1924/04/25(改)石狩沼田
沼田 JR東・上越 1924/03/31(開)
十勝清水 JR北・根室 1907/09/08(開)清水
1934/11/20(改)十勝清水
清水 JR海・東海道 1889/02/01(開)江尻
1934/12/01(改)清水
名鉄・瀬戸 1911/05/23(開)

348駅中24駅と7%弱である。このうち開業時または改称時に単独基本地名駅がないのに自主的に国名を冠した駅を除き、実質的に長幼の序に反しているのは、のちに単独基本地名駅が開業し、改称を余儀なくされた上総清川、下総中山、近江長岡、近江八幡、上州富岡、上州新屋、紀伊勝浦、豊前松江、肥前山口、石狩沼田、十勝清水の10駅である。

近江長岡は「*長岡」駅の中で最も早く長岡駅として開業した。その後数年以内に山陽鉄道、日本鉄道、北越鉄道に同名の長岡駅が開業した。その中で山陽鉄道の長岡は、買収前に西大寺に(さらに赤穂線西大寺駅開業時に東岡山に)改称。国有化後の1914年12月、最も著名な新潟県の長岡に駅名を譲り、国名駅となった(東北線の長岡も同時に伊達に改称)。松江(しょうえ)として開業した日豊本線の豊前松江は、著名地名の山陰本線松江駅が開業してしばらくたってから、読み方が異なるのにもかかわらず改称を余儀なくされた。紀伊勝浦と勝浦は、ほぼ同時に開業し、ともに勝浦を名乗っていたが、和歌山県の勝浦が後に紀伊を冠した。那智勝浦町の中心集落である(紀伊)勝浦に対し、現在は市代表駅となっている千葉県の勝浦(当時は町)が格上とみなされたのだろう。

「国名*」駅がJRにあり、あとから開業した私鉄駅が接頭語を冠しなかったのが越後岩塚・岩塚など7組ある。私鉄・公営交通は、国鉄・JRとの連絡運輸がある場合でもその範囲が限定されているので、遠隔地にある他社の同名駅に無頓着である(国鉄から改称を強いられなかった)。その中で、小湊鉄道は律儀に「上総*」駅としているが、里美だけは上総を冠していない。相手が私鉄だったからだろうか。

むしろ、このケースでは、開業時に単独基本地名駅が存在しなかったのに、旧国鉄の「国名*」駅がなぜ国名を冠したかを解明する必要がある。単独基本地名駅も他国の「国名*」駅も存在せず、区別する対象がないのに国名を冠した134駅と同じ謎である。

その理由の一つは、同じ読みで表記が異なる他国の駅と区別するためだろう。別表の同一基本地名(読み)駅で、同一表記の基本地名駅がない駅について、同じ読みの基本地名駅を示した。日向大束(ひゅうがおおつか、JR九州・日南)、筑前垣生(ちくぜんはぶ、JR九州・筑豊)、石狩太美(いしかりふとみ、JR北海道・札沼)などは、先行開業した同じ読みの駅と区別するために、国名を冠したと考えられる。しかし表記・読みともに同じ基本地名駅がない孤立「国名*」駅が伊豆熱川(伊豆急行)、備前田井(JR西・宇野)など45駅ある。「国名*」駅開業時にさかのぼると、孤立「国名*」駅の数は増える。例えば、伊予石城(いよいわき、JR四国・予讃)は、磐城(近鉄・南大阪)の開業やいわき(JR東日本・常磐)の平からの改称に先行しており、開業時には孤立「国名*」駅だった。

ほかには、次のような理由が想定できる。

豊前善光寺は、開業時の四日市から改称した。国鉄の同一駅名回避の方針に従って、関西本線の四日市と区別するための改称だが、豊前四日市ではなく善光寺を選択した。国名を冠したのは長野の善光寺を意識したものだろう。善光寺駅(JR東海・身延)と信濃善光寺駅(善光寺白馬電鉄)が開業したのは、その後である。

遠州鉄道の岩水寺は、国鉄二俣線(現天竜浜名湖鉄道)の岩水寺駅が開業する以前に遠州岩水寺と改称したが、これは国名というよりも社名を冠したと解釈すべきだろう。同時に上島など計6駅が遠州を冠した。上州富岡も富岡からの改称である。常磐線の富岡駅よりもわずかに早い開業だったが、このときに上州一ノ宮などとともに上州を冠した。

筑後船小屋は、2011年3月12日九州新幹線の開業に当たって船小屋駅が移転し、駅名も改称となった。同駅がある筑後市は、1954年4月、羽犬塚町ほか3村が合併して市制施行した。旧国名を名乗る市の中心駅は、市制施行を機に「*市」駅と改称する傾向があるが、中心駅名は羽犬塚のままだった。船小屋が九州新幹線の停車駅となったのを機に改称するなら、これまでなら筑後市としたところだろう。また、2005年10月武生市と今立町の合併で国名市となった越前市の福井鉄道の武生新駅が2010年越前武生に改称された(その後2023年たけふ新に再改称。2024年北陸新幹線敦賀延伸時に越前たけふが開業)。1999年3月13日出雲大社口から改称された出雲神西も、1993年3月18日以前は単に神西だった。これらの例は、遠隔地の同名駅と区別するのための国名駅というよりもむしろ市名を冠して所在を明らかにしたと解釈すべきだろう。なお、市名を冠して駅名を改称する傾向は、駅名改称の研究で考察している。


「国名*」駅の発祥

「国名*」駅のうち最初に国名を冠した駅は、筑前植木(JR九・筑豊)である。1893年12月20日に筑豊興業鉄道(1894年、筑豊鉄道に改称)の植木駅として開業し、筑豊鉄道が九州鉄道と合併した1897年10月1日に、筑前植木に改称した。九州鉄道には現鹿児島線の植木(1891/07/01開業)が存在しており、先輩に駅名を譲ったのである。第2号は磐城太田(JR東・常磐)で、開業後ほぼ半年を経た1898年12月1日に「高」から改称された。その4ヶ月後、常陸太田(JR東・水郡)が単独基本地名駅として開業した(1927/12/01国名駅に改称)。

1906年制定の鉄道国有法によって翌1907年にかけて17私鉄が買収され(第1次国有化)、官営鉄道のネットワークが全国に拡大し、多くの同名駅が生まれた。吸収合併後の統合作業が一段落した1910年代初めに、鉄道院は「原則として同じ名前の駅を重複して設置しない」という方針を定めたと推定され、1911年から段階的に、多くの同名駅を国名を冠して改称した。その第1号は、丹波竹田(阪鶴鉄道→福知山線、1911/11/01改称)で、同じ兵庫県にあった竹田(JR西・播但、1906/04/01開業)との重複を避けるためである。対象となる同名駅は、比較的近隣の駅に始まり、その後全国に拡大した。

開業時から国名を冠して命名された旧国鉄駅で、もっとも古いのは1910年10月10日開業の出雲今市(1957年4月1日出雲市に改称)である。日光線の今市(1890/06/01開業)に敬意を表し国名を冠した。第2号は豊前長洲(JR九・日豊、1911/04/22開業)で、既設の長洲駅(JR九・鹿児島、1891/04/01開業)に対し、「国名*」駅となった。これも、1910年代に同名駅回避のルールが定められたことを物語っている。その結果「国名*」駅が続々誕生した[4]

表9に、旧国鉄の「国名*」駅のうち、開業時には単独基本地名駅でその後国名を冠して改称された駅を掲げる。

表9 単独基本地名駅から「国名*」駅への改称
駅名(現駅名) 事業者・路線 開業日 旧駅名 改称日 国鉄買収日 既存単独基本地名駅開業(*改称)日
筑前植木 JR九・筑豊 1893/12/20 植木 1897/10/01 筑豊興業鉄道→筑豊鉄道→九州鉄道 1907/07/01 JR九・鹿児島 1891/07/01
丹波竹田 JR西・福知山 1899/07/15 竹田 1911/11/01 阪鶴鉄道 1907/08/01 JR西・播但 1906/04/01
肥前山口 JR九・長崎 1895/05/05 山口 1913/03/01 九州鉄道 1907/07/01 JR西・山口 1913/02/20
越後曽根 JR東・越後 1912/08/25 曽根 1913/04/20 越後鉄道 1927/10/01 JR西・山陽 *1902/03/01
近江長岡 JR海・東海道 1889/07/01 長岡 1914/12/01 - JR東・信越 1898/06/16
陸前古川(古川) 国鉄・陸羽東 1913/04/20 古川 1915/06/01 - *国鉄・高徳 1916/07/01
阿波川島 JR四・徳島 1899/08/19 川島 1915/07/01 徳島鉄道 1907/09/01 JR東・水戸 *1889/05/25
下総中山 JR東・総武 1895/04/12 中山 1915/09/11 総武鉄道 1907/09/01 JR東・横浜 1908/09/23
大和新庄 JR西・和歌山 1896/05/10 新庄 1915/09/11 南和鉄道→関西鉄道 1907/10/01 JR東・奥羽 1903/06/11
尾張一宮 JR海・東海道 1886/05/01 一ノ宮 1916/01/01 - (一斉改称)
上総一ノ宮 JR東・外房 1897/04/17 一ノ宮 1916/01/01 房総鉄道 1907/09/01 (一斉改称)
三河一宮 JR海・飯田 1897/07/22 一ノ宮 1916/01/01 豊川鉄道 1943/08/01 (一斉改称)
長門一ノ宮(新下関) 国鉄・山陽 1901/05/27 一ノ宮 1916/01/01 山陽鉄道 1906/12/01 (一斉改称)
備前一宮 JR西・吉備 1904/11/15 一ノ宮(→一宮) 1916/02/01 中国鉄道 1944/06/01 (一斉改称)
伊賀上野 JR西・関西 1897/01/15 上野 1916/09/11 関西鉄道 1907/10/01 JR東・東北 1883/07/28
磐城金山 国鉄・白棚 1916/10/08 金山町 1916/11/07 JR北・根室 1900/12/02
丹波大山 JR西・福知山 1899/05/25 大山 1917/05/01 阪鶴鉄道 1907/08/01 (一斉改称)
伯耆大山 JR西・山陰 1902/12/01 熊党→大山 1917/05/01 - (一斉改称)
近江八幡 JR西・東海道 1889/07/01 八幡(はちまん) 1919/03/11 - JR九・鹿児島 1902/12/27
大和二見 JR西・和歌山 1902/06/03 二見 1919/04/15 南和鉄道→関西鉄道 1907/10/01 -
武蔵境 JR東・中央 1889/04/11 1919/07/01 甲武鉄道 1906/10/01 (一斉改称)
羽後境 JR東・奥羽 1904/08/21 1919/07/01 - (一斉改称)
下総松崎 JR東・成田 1901/08/10 松崎(まんざき) 1920/09/01 成田鉄道 1920/09/01 JR西・山陰 1904/03/15
大隅横川 JR九・肥薩 1903/01/15 横川(よこがわ) 1920/09/01 - JR西・山陽 1897/09/25
越中中川 JR西・氷見 1916/04/01 中川(簡) 1920/09/01 中越鉄道 1920/09/01 JR東・奥羽 1903/11/03
上総清川 JR東・久留里 1912/12/28 清川 1923/09/01 千葉県営鉄道 1923/09/01 JR東・陸羽西 1914/06/14
石狩沼田 JR北・留萌 1910/11/23 沼田 1924/04/25 - JR東・上越 1924/03/31
日高門別 JR北・日高 1924/09/06 門別 1925/02/10 日高拓殖鉄道 1927/08/01 -
岩代熱海(磐梯熱海) 国鉄・磐越西 1898/07/26 熱海 1925/04/21 - JR東・東海道 1925/03/25
下野豊原(豊原) 国鉄・日光 1887/11/16 豊原 1925/04/21 日本鉄道 1906/11/01 -
武蔵増戸 JR東・五日市 1925/04/21 増戸 1925/05/16 五日市鉄道→南武鉄道 1944/04/01 -
武蔵五日市 JR東・五日市 1925/04/21 五日市 1925/06/01 五日市鉄道→南武鉄道 1944/04/01 JR西・山陽 1899/12/08
常陸太田 JR東・水郡 1899/04/01 太田 1927/12/01 水戸鉄道 1927/12/01 -
常陸青柳 JR東・水郡 1897/11/16 青柳 1927/12/01 水戸鉄道 1927/12/01 JR東・中央 1905/11/25
備後木戸 国鉄・芸備 1930/04/21 木戸(停) 1933/06/01 芸備鉄道 1933/06/01 JR東・常磐 1898/08/23
備後三日市 JR西・芸備 1930/04/25 三日市(停) 1933/06/01 芸備鉄道 1933/06/01 *国鉄・北陸(現・黒部) 1910/4/16
阿波川端 JR四・高徳 1927/07/15 川端(停) 1933/07/01 阿波電気軌道→阿波鉄道 1933/07/01 JR北・石勝 1893/08/01
阿波市場 国鉄・高徳 1916/07/01 市場 1933/07/01 阿波電気軌道→阿波鉄道 1933/07/01 JR西・加古川 1913/08/10
阿波中原 国鉄・高徳 1916/07/01 中原 1933/07/01 阿波電気軌道→阿波鉄道 1933/07/01 JR九・長崎 1891/08/20
伊予宮野下 JR四・予土 1914/10/18 宮野下 1933/08/01 宇和島鉄道 1933/08/01 -
伊予長浜 JR四・予讃 1918/02/14 長浜町 1933/10/01 愛媛鉄道 1933/10/01 JR西・北陸 1882/03/10
伊予大洲 JR四・予讃 1918/02/14 大洲 1933/10/01 愛媛鉄道 1933/10/01 -
肥前吉井(吉井) 国鉄・松浦 1933/10/24 吉井 1934/04/18 伊万里鉄道→九州鉄道 1907/07/01 -
紀伊天満 JR西・紀勢 1912/12/04 那智口→天満 1934/07/01 - JR西・大阪環状 1895/10/17
紀伊勝浦 JR西・紀勢 1912/12/04 勝浦 1934/07/01 - JR東・外房 1913/06/20
出雲大東 JR西・木次 1916/10/11 大東町 1934/08/01 簸上鉄道 1934/08/01 -
十勝清水 JR北・根室 1907/09/08 清水 1934/11/20 - JR海・東海道 *1934/12/01
大隅野里 国鉄・大隅 1915/07/11 野里 1935/06/01 大隅鉄道 1935/06/01 JR西・播但 1894/07/26
大隅高須 国鉄・大隅 1915/07/11 高須 1935/06/01 大隅鉄道 1935/06/01 -
大隅高山 国鉄・大隅 1920/12/23 高山 1935/06/01 大隅鉄道 1935/06/01 JR海・高山 1934/10/25
大隅川西 国鉄・大隅 1920/12/23 川西 1935/06/01 大隅鉄道 1935/06/01 -
阿波赤石 JR四・牟岐 1916/12/15 赤石 1936/07/01 阿南鉄道 1936/07/01 -
安芸長束 JR西・可部 1928/11/09 大師→長束 1936/09/01 大日本軌道広島支社→可部軌道→広島電気→広浜鉄道 1936/09/01 -
安芸中島(中島) 国鉄・可部 1911/06/12 中島 1936/09/01 大日本軌道広島支社→可部軌道→広島電気→広浜鉄道 1936/09/01 JR九・唐津 1896/12/01
安芸山本 国鉄・可部 1928/11/09 長束→山本 1936/09/01 大日本軌道広島支社→可部軌道→広島電気→広浜鉄道 1936/09/01 JR九・唐津 1896/12/01
肥前神田(神田) 国鉄・松浦 1934/02/11 神田 1936/10/01 佐世保軽便鉄道→佐世保鉄道 1936/10/01 JR東・東北 1919/03/01
肥前黒石 国鉄・臼ノ浦 1931/08/29 黒石 1936/10/01 佐世保鉄道 1936/10/01 *国鉄・黒石
紀伊中ノ島 JR西・阪和 1932/01/01 中ノ島(停)→阪和中ノ島 1936/09/25 阪和電気鉄道→南海鉄道 1944/05/01 -
信濃常盤 JR東・大糸 1915/11/02 常盤(停) 1937/06/01 信濃鉄道 1937/06/01 JR西・宇部 1925/06/01
安芸戸島 国鉄・芸備 1930/04/25 戸島(停) 1937/07/01 芸備鉄道 1937/07/01 -
安芸矢口 JR西・芸備 1915/04/28 矢口 1937/07/01 芸備鉄道 1937/07/01 -
安芸小田 国鉄・芸備 1930/04/25 小田(停) 1937/07/01 芸備鉄道 1937/07/01 JR西・山陰 1913/11/21
安芸中山 国鉄・芸備 1929/03/20 中山 1937/07/01 芸備鉄道 1937/07/01 JR東・横浜 1908/09/23
安芸愛宕 国鉄・宇品 1931/03/20 愛宕町 1937/07/01 - JR東・東北 1962/07/01
羽後鮎川(鮎川) 国鉄・矢島 1922/08/01 鮎川 1937/09/01 横荘鉄道 1937/09/01 -
羽後黒沢(黒沢) 国鉄・矢島 1922/08/01 黒沢 1937/09/01 横荘鉄道 1937/09/01 JR東・北上 1921/11/27
筑前前原 JR九・筑肥 1924/04/01 前原 1937/10/01 北九州鉄道 1937/10/01 -
筑前前原 国鉄・筑肥 1925/06/15 愛宕神社前→庄 1937/10/01 北九州鉄道 1937/10/01 -
紀伊佐野 JR西・紀勢 1913/03/01 佐野村 1942/04/01 - JR東・両毛 1888/05/22
長門長沢 JR西・小野田 1929/05/16 長沢(停) 1943/05/01 宇部鉄道 1943/05/01 JR東・陸羽東 1915/11/01
長門本山 JR西・小野田 1937/01/21 本山 1943/05/01 宇部鉄道 1943/05/01 JR四・予讃 1913/12/20
陸前大塚 JR東・仙石 1931/12/01 大塚 1944/05/01 宮城電気鉄道 1944/05/01 JR東・山手 1903/04/01
陸前浜田 JR東・仙石 1927/04/18 浜田 1944/05/01 宮城電気鉄道 1944/05/01 JR西・山陰 1921/09/01
陸前富山 JR東・仙石 1928/04/10 富山(とみやま) 1944/05/01 宮城電気鉄道 1944/05/01 JR西・北陸幹 1899/03/20
備前三門 JR西・吉備 1904/11/15 三門 1944/06/01 中国鉄道 1944/06/01 JR東・外房 1903/08/16
備前原 JR西・津山 1929/06/20 原(停) 1944/06/01 中国鉄道 1944/06/01 JR海・東海道 1900/02/25
肥前神埼 国鉄・長崎 1891/08/20 神崎→神埼 1945/05/01 九州鉄道 1907/07/01 -
豊前松江 JR九・日豊 1897/09/25 松江(しょうえ) 1945/05/01 九州鉄道 1907/07/01 JR西・山陰 1908/11/08
豊前川崎 JR九・日田彦山 1899/07/10 川崎 1945/05/01 九州鉄道 1907/07/01 JR海・東海道 1872/07/10
駿河小山 JR海・御殿場 1889/02/01 小山→駿河 1952/01/01 - JR東・東北 1885/07/16
出雲神西 JR西・山陰 1982/07/01 神西→出雲大社口 1999/03/13 - -
筑後船小屋 JR九・鹿児島 1928/07/20 船小屋 2011/03/12 - -

単独基本地名駅から「国名*」駅に改称された77駅のうち、59駅が開業時は私鉄でその後買収された路線にある。国有化後の同名駅の回避のための改称は、その買収時期によって次の二つに区分される。

また「国名*」駅への改称には、次の三つのパターンがあったことがわかる。


基本地名駅への改称

表9に挙げた駅のうち、陸前古川など8駅がその後基本地名駅に再改称された。その他、「国名*」駅から基本地名駅に改称になった駅が表10のとおりある(現存駅)。

表10 基本地名駅への改称
現駅名 事業者・路線 開業日 開業駅名 改称日1 改称駅名 改称日2 備考
豊原 JR東・東北 1887/07/16 豊原 1925/04/01 下野豊原 1948/08/01
益田 JR西・山陰 1923/12/26 石見益田 1949/12/15
神埼 JR九・長崎 1907/11/01 神崎→神埼 1945/05/01 肥前神埼 1956/04/10
中島 JR西・可部 1911/06/12 中島(停) 1936/09/01 安芸中島 1956/06/01
椿 JR西・紀勢 1935/03/29 紀伊椿 1965/03/01
湯浅 JR西・紀勢 1927/08/14 紀伊湯浅 1965/03/01
江津 JR西・山陰 1920/12/25 石見江津 1970/06/01
古川 JR東・陸羽東 1913/04/20 古川 1915/06/11 陸前古川 1980/11/01
本巣 樽見鉄道 1956/03/20 美濃本巣 1984/12/06 転換時改称
神海 樽見鉄道 1956/03/20 美濃神海 1984/12/06 転換時改称
鮎川 由利高原鉄道 1922/08/01 鮎川 1937/09/01 羽後鮎川 1985/10/01 転換時改称
黒沢 由利高原鉄道 1922/08/01 黒沢 1937/09/01 羽後黒沢 1985/10/01 転換時改称
川辺 由利高原鉄道 1938/10/21 羽後川辺 1985/10/01 転換時改称
矢島 由利高原鉄道 1938/10/21 羽後矢島 1985/10/01 転換時改称
高田 甘木鉄道 1960/10/01 筑前高田 1986/04/01 転換時改称
小郡 甘木鉄道 1939/04/28 筑後小郡 1986/04/01 転換時改称
松崎 甘木鉄道 1939/04/28 筑後松崎 1986/04/01 転換時改称
長良川鉄道 1923/10/05 美濃関 1986/12/11 転換時改称
洲原 長良川鉄道 1957/04/01 美濃洲原 1986/12/11 転換時改称
相生 長良川鉄道 1929/12/08 美濃相生 1986/12/11 転換時改称
山田 長良川鉄道 1932/07/09 美濃山田 1986/12/11 転換時改称
桜木 天竜浜名湖鉄道 1935/04/17 遠江桜木 1987/03/15 転換時改称
吉井 松浦鉄道 1933/10/24 吉井 1934/04/18 肥前吉井 1988/04/01 転換時改称
御厨 松浦鉄道 1935/08/06 肥前御厨 1988/04/01 転換時改称
神田 松浦鉄道 1934/02/11 神田(停) 1936/10/01 肥前神田 1988/04/01 転換時改称
中里 松浦鉄道 1920/03/27 肥前中里 1988/04/01 転換時改称
上島 遠州鉄道 1909/12/06 上島 1923/04/01 遠州上島 2012/11/24
曳馬 遠州鉄道 1909/12/06 曳馬 1951/11/01 遠州曳馬 2012/11/24

第3セクターへの転換時の改称が大半を占める。連絡運輸の範囲が縮小され、区別する必要がなくなったためだろう。国鉄に買収されて国名を冠したときと逆の対応である。樽見鉄道、甘木鉄道、松浦鉄道は全廃となり、由利高原鉄道はJRとの共用駅羽後本荘、長良川鉄道は共用駅美濃大田と他の国名駅がある美濃白鳥だけが残った。

益田と江津は、基本地名駅も他の国名駅もないのに国名を冠していた。Wikipediaによると、同じ読みの増田(現名取、JR東・東北)の改称、郷津(北陸本線)の廃止によるものとされている(益田駅江津駅)。豊原は樺太と台湾の同名駅に対し国名駅となったが、戦後もとの基本地名駅に戻った。


[1] 高松琴平電鉄には、一宮、高田だけでなく、次の駅で基本地名を単独で使用し、孤高を保っている。なお、高松琴平電鉄は、1965年当時は国鉄との間に連絡運輸を行っていたが、これらの駅は国鉄からの連絡運輸の対象駅(社線旅客運賃設定駅)に入っていなかった(昭和40年度版「停車場一覧」)。
路線 「国名*」駅 他の基本地名駅
一宮 琴平 上総一ノ宮
尾張一宮
三河一宮
飛騨一ノ宮
備前一宮
土佐一宮
上州一ノ宮
遠江一宮
JR東・外房
JR海・東海道
JR海・飯田
JR海・高山
JR西・吉備
JR四・土讃
上信電鉄
天竜浜名湖
 
花園 琴平 河内花園 近鉄・奈良 JR西・山陰
太田 琴平 磐城太田
美濃太田
羽後太田
JR東・常磐
JR海・高山
秋田内陸縦貫
東武・伊勢崎
大町 志度 信濃大町 JR東・大糸 JR西・可部=広島新交通、JR九・佐世保、函館市、北総鉄道、富山地方鉄道・富山市内
塩屋 志度 讃岐塩屋
薩摩塩屋
JR四・予讃
JR九・指宿枕崎
JR西・山陽
志度 備前原 JR西・津山 JR海・東海道、名古屋市・鶴舞
財田 志度 讃岐財田 JR四・土讃 JR西・山陽
高田 長尾 陸前高田
越前高田
大和高田
美濃高田
肥後高田
JR東・大船渡
JR西・越美北
近鉄・大阪
近鉄・養老
肥薩おれんじ
JR東・信越、JR西・和歌山、JR九・長崎、横浜市・4号、甘木鉄道
[2] ここで開業日は現在の駅の開業日ではなく、最初に同一基本地名に基づく駅名が使用された駅の開業日である(横浜駅の開業日は初代横浜駅(現桜木町駅。現横浜駅は三代目)の開業日)。
[3] 一部は、ameniさんのブログにわとり紅茶メモの2006年12月25、26、31日の記事で指摘を受けた。
[4] 同名駅を回避するのに、なぜ県名ではなく、旧国名を冠したか。次の例に見るように、明治時代には旧国名が地域呼称として機能しており、むしろ県名よりなじみがあったようだ。
  • 1929年以降制定された「*県下国界変更及び郡廃置法律」によって、県境が変更されると同時に国界も変更になった。
  • 夏目漱石の小説に、"肥前の国は唐津の"(『我輩は猫である』1905年)や"日向の延岡"(『坊ちゃん』1906年)のような表記が見られる。
    ただし「県名*」駅も1916年には誕生している。 陸中・岩手では「国名*」駅と「県名*」駅が並存しているが、県名を冠した岩手上郷駅(1916年2月10日上郷駅から改称)が「陸中*」駅に先行している。

  • 改訂履歴
    2005/10/23: 駅名接頭・接尾語考に「国名*」駅として掲載
    2005/11/03: 「国名*」駅の駅数(雲州平田の漏れ)を訂正、紀伊駅の国名との関係を訂正
    2005/11/06: 別表「旧国名駅」を掲載
    2005/12/04: 脚注4を追加(「都道府県市区町村落書き帳」での議論を参考にした)
    2007/10/20: 表2に、旧国名単独駅から漏れていた近鉄田原本線但馬駅を追加。ameniさんのブログ「にわとり紅茶メモ」の指摘を受け、単独基本地名駅より早く開業した「国名*」駅に関する記事を改訂。
    2008/12/11: 近鉄伊賀線の伊賀鉄道移管、高千穂鉄道の休廃止、横浜市営地下鉄4号線・京阪中之島線の開業に対応。旧国名単独駅から漏れていた阪急京都本線淡路駅を追加。読者から漏れの指摘を受けた国名駅(阿波大谷)及び基本地名駅(多数)を追補。
    2009/10/04: 8月9日及び10月4日の別表の改訂を反映
    2009/11/02: 11月1日の北陸鉄道石川線加賀一の宮駅の廃止を反映
    2011/03/31: 2010年3月25日の越前武生駅及び2011年3月12日の筑後船小屋駅の改称を反映
    2011/07/01: 2011年4月1日の松本電鉄のアルピコ交通への社名変更を反映。上田交通を上田電鉄に訂正(2005年10月鉄道事業を分社化)
    2011/09/19: 旧国名駅に過去存在した国名駅を記載したことに伴い、「駅名接頭・接尾語考」から独立させ、全面的に改稿
    2011/09/25: 旧国名駅に漏れていた国名駅を追補したことに伴い、表3、表5の駅名数を訂正
    2013/03/25: 2012年11月24日の遠州上島及び遠州曳馬の改称を反映し、表3、表4、表5、表10を変更。越前武生、筑後船小屋の国名市を冠した駅に出雲神西駅を追記
    2015/03/07: 2014年5月12日の渡島鶴岡駅の廃止、2015年3月14日予定の北陸新幹線開業に伴う並行在来線の経営分離、4月1日予定の丹後大宮、丹後神野、但馬三江3駅の改称に対応し、表3、表4、表5及び本文の数字を変更。表5及び表8の解説の構成を改め、加筆
    2015/04/03: 京都丹後鉄道を正式事業者名のWiller Trainsに変更、カッコ内に注記
    2015/11/20: Willer Trainsを正式名のWILLER TRAINSに変更。北陸新幹線開業により経営分離した事業者名変更漏れを訂正
    2015/12/16: 漏れていた国名駅(5駅)と単独基本地名駅(多数)を追加し、現存国名駅数の間違いを訂正して、表3、表4、表5を改訂。別表旧国名駅に挿入した「同一基本地名(読み)駅」に基づき、区別する対象がないのに国名を冠した孤立国名駅について加筆。その他、「「国名*」駅の発祥」等を加筆推敲
    2015/12/26: 別表旧国名駅に基本地名駅(川越、庄)を追加したことに伴い、表5を改訂
    2016/04/09: 3月26日の渡島大野駅の改称に対応し、表3、表4、表5を変更
    2017/03/01: 3月4日のあき亀山駅の開業に対応し、本文に加筆、表3、表4、表5を変更
    2018/03/31: 4月1日の三江線石見5駅の廃止に対応し、表3、表4、表5を変更
    2018/08/11: 漏れていた北陸本線旧越前下関駅を追加し、表3、表4、表5を改訂し、本文中の数字を変更
    2019/01/02: 読者からの情報提供により別表旧国名駅に「国名*」駅を追加・削除したことに伴い、表2、表3、表4、表5、表7、表8、表9を改訂し、本文中の数字等を変更
    2019/03/31: 3月23日陸中山田駅の三陸鉄道への移管及び2019年春の駅開業・廃止を反映し、表4を2019年4月1日現在の国名駅数・率に変更、表6の陸中山田の事業者・路線名を変更
    2020/03/31: 2020年2月22日の富山地方鉄道と富山ライトレールの合併による越中中島駅の富山地方鉄道への移管及び4月1日の気仙沼線・大船渡線BRT区間の鉄道事業廃止に伴う「陸前*」駅7駅の廃止に対応し、表3、表4、表5及び脚注1を改定
    2020/05/15: 2020年5月7日の札沼線北海道医療大学前・新十津川間廃止による石狩金沢、石狩月形各駅の廃止を反映し、表3、表4、表5を改定
    2020/06/02: 6月1日改称の大阪高速鉄道を大阪モノレールに変更
    2020/09/02: 表2に漏れていた岩代、石見、淡路町を追加
    2021/03/31: 2021年4月1日の日高本線鵡川・様似間廃止による日高門別、日高東別、日高三石、日高幌別各駅の廃止を反映、また漏れていた基本地名駅(別表旧国名駅参照)を追加して、表3、表4、表5を改定
    2021/10/16: 読者の指摘により別表旧国名駅に漏れていた単独基本地名駅を追加したことに伴い、表5の単独基本地名駅の数を改訂。表2に伊賀屋を追加、誤記を訂正
    2022/03/12: 2022年3月12日の札沼線石狩太美、石狩当別の改称を反映し、表3、表4、表5を改定
    2022/09/21: 2022年9月23日の長崎本線肥前山口の改称を反映し、表3、表4、表5を改定、表8、表9に網掛け
    2023/03/29: 2023年2月27日の福井鉄道越前武生の改称を反映し、表3、表4、表5を改定
    2023/04/01: 表7に漏れていた越前武生の改称を記載
    2024/03/15: 2024年3月16日の越前たけふ駅の開業により本文、表3、4,5の駅名数を変更。「長幼の序」の項の国名市における駅の所在を示すための国名駅について加筆。
    2024/04/02: 4月1日の根室本線金山駅の廃止に伴い、表5の現存単独基本地名駅数を変更

    初出 2005/10/23
    最終更新 2024/04/02
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